自動車税制の「パラダイムシフト」が始まる

​長年にわたり、日本の道路整備や地方財源を支えてきたガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)の「暫定税率廃止」が決まりました。この暫定税率は、本来の税率に上乗せされた部分ですが、これが廃止されると国・地方の税収は年間約2.5兆円(暫定税率分と石油石炭税を含む)もの規模で大幅に減少します。

ガソリン税及び軽油引取税の暫定税率の廃止について
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/information/211748.pdf

​この巨額の財源不足を補い、かつ次世代の自動車社会に対応する新たな税制として、にわかに注目を集めていたのが「走行距離税(走行税)」です。

​本記事では、この走行距離税導入の可能性を片山さつき大臣の「走行距離税を代替え財源として検討しない」という発言を鵜吞みにしないで財源、公平性、技術、経済、海外事例という5つの視点から徹底的に分析します。なぜ今、走行距離税が議論されたのか、導入されれば私たちの生活はどう変わるのか、その未来を深く掘り下げていきます。

​1. 議論の背景:なぜ今、走行距離税が浮上したのか?

​走行距離税の議論が急浮上した背景には、日本の自動車税制が抱える根本的な問題と、時代の大きな流れが関係しています。

​1.1. 財源の「持続可能性」の崩壊:EV普及と燃費向上

​現行の自動車関連税制、特にガソリン税は、「走れば走るほどガソリンを消費し、その消費量に応じて道路の利用者(ドライバー)が負担する」という仕組みが基本です。しかし、この前提が崩れ始めています。

  • 電気自動車(EV)の普及: EVはガソリンを消費しないため、現行制度ではガソリン税を全く負担しません。今後、脱炭素社会の実現に向けてEVシフトが進めば、道路利用者は増えているにもかかわらず、主要な道路財源であるガソリン税収は減少の一途をたどります。
  • ガソリン車の燃費向上: ガソリン車自体も技術革新により燃費が向上しています。以前と同じ距離を走っても、税収は以前より少なくなります。

​つまり、今の税制では、道路の維持管理に必要な財源の確保が難しくなってきているのです。この状況下でガソリン暫定税率が廃止されれば、財源の枯渇はさらに深刻化します。走行距離税は、動力源(ガソリン、電気、水素など)に関わらず、道路の利用量(走行距離)に応じて公平に負担を求めるという、次世代を見据えた財源確保の手段として検討されているのです。

​1.2. 暫定税率廃止による「財源ショック」

​ガソリン税の暫定税率(本則税率への上乗せ分)は、本来は期限付きの特例でしたが、長期間にわたり維持されてきました。この暫定税率が廃止されれば、ガソリン価格は一時的に下落する可能性がありますが、同時に年間約1兆円を超える巨額の税収が失われます。走行距離税は、この失われた税収の代替財源として、政治的な議論の俎上に上がっている側面が非常に大きいと言えます。

暫定税率の廃止は多くの国民が望む減税です。

​2. 走行距離税の多角的分析:メリットとデメリット

​走行距離税の導入は、社会全体、そして個々のドライバーに大きな影響を与えます。その是非を判断するため、具体的なメリットとデメリットを明確にしておく必要があります。

​2.1. 走行距離税がもたらすメリット 📈

詳細期待される効果
公平性の向上ガソリン車、EV、PHVなど、動力源に関係なく、道路利用量(走行距離)に応じて負担を求められるため、税負担の公平性が高まります。EVユーザーも道路維持に貢献し、「乗り得」の解消につながります。
財源の安定化EVシフトや燃費向上に左右されず、走行距離という恒常的な指標に基づいて課税できるため、道路インフラ維持に必要な財源が安定的に確保できます。予測可能で持続的な道路整備計画の立案が可能になります。
環境負荷の考慮課税システムに走行場所や車種、環境性能などを反映させやすくなるため、環境負荷の大きい車両や、渋滞の激しいエリアでの利用に高い税率を適用するロードプライシングへの応用が期待できます。交通量の最適化やCO2排出量の削減を促します。
低頻度利用者への恩恵普段車に乗らない、あるいは短距離の利用が中心のユーザーは、現行制度よりも税負担が軽減される可能性があります。「所有」から「利用」への価値観の変化を後押しします。

2.2. 走行距離税が抱える深刻なデメリットと懸念事項 📉

デメリット詳細発生しうる問題
地方・物流への負担増公共交通機関が未発達な地方在住者や、長距離走行が避けられない運送・物流業界にとって、走行距離税は生活・経営を直撃する重い負担となります。都市部と地方の経済格差拡大、ひいては**物価高騰(輸送料の上昇)**につながる可能性があります。
プライバシー侵害リスク走行距離を正確に把握するためには、GPSなどを用いた車載器の設置が必要になる可能性があります。これにより、個人の移動履歴が国や自治体に把握されることへのプライバシー侵害の懸念が生じます。国民の強い抵抗、システムへの不信感につながる可能性があります。
導入・管理コスト全国すべての自動車に車載器を導入し、データを収集・管理する巨大なインフラを構築するには、高額な初期投資と継続的な維持管理コストが発生します。税収アップ効果を上回るほどのコストがかかる可能性が指摘されています。
二重課税の懸念ガソリン税を廃止せずに走行距離税を導入した場合、「ガソリン代」と「走行距離」の両方に課税される二重課税の状態となり、ガソリン車ユーザーの不公平感が極度に高まります。既存税制との整合性を慎重に図る必要があります。
メーター改ざん等の不正行為課税逃れを目的としたオドメーター(走行距離計)の不正改ざんが増加するリスクがあります。

3. 導入の技術的・制度的課題と解決への道筋

​走行距離税を実現する為には、国民の納得感と、克服すべき技術的・制度的な課題が山積しています。その課題について説明します。

​3.1. 走行距離の正確な把握とプライバシー保護の両立

​最大の技術的課題は、正確な走行距離の計測です。

  • 車載器の義務化:最も確実な方法は、ドイツやアメリカの事例のように、GPS機能を備えた専用の車載器(テレマティクス)を全車両に義務付けることです。しかし、これでは前述のプライバシー問題が深刻化します。
  • 代替案の検討
    • 車検時のオドメーター報告:現状の車検制度を活用し、その都度オドメーターの値を報告させる方法です。ただし、リアルタイム性がなく、不正改ざんのリスクが高いという問題があります。
    • GPS機能の「オフ」オプション:オレゴン州の「OreGO」のように、GPS情報を利用しないオドメーター報告(写真添付など)や、GPS情報を匿名化・分散化して管理するオプションを提供することで、プライバシーに配慮した選択肢を用意することが解決策の一つとして考えられます。

​3.2. 地方・業種への配慮:軽減措置の設計

​地方在住者や物流業者への負担増は、国民の強い反対を招く最大の要因です。導入にあたっては、以下の軽減措置が不可欠です。

  • 生活用車両への軽減税率: 公共交通機関が乏しい地域に居住するユーザーや、通学・通院など生活に必要な移動距離に対しては、税率を大幅に軽減する制度の導入。

  • 事業用車両への優遇: トラックやバスなどの事業用車両については、課税対象外とするか、あるいは大幅な税控除・還付制度を設けることで、物流コストへの影響を最小限に抑える必要があります。

  • 地域差の反映: 都市部の渋滞緩和を目的とした課税(ロードプライシング)とは切り離し、地方の生活道路利用には配慮した制度設計が必要です。

​4. 海外事例から学ぶ:成功と失敗の教訓

​日本よりも先に走行距離税(RUC: Road User Charging)を導入・検討している海外の事例から、その可能性を探ります。

​4.1. ニュージーランド:ディーゼル車・大型車へのRUC導入

​ニュージーランドでは、ガソリン税の対象外であるディーゼル車や大型車に対し、「ロード・ユーザー・チャージ(RUC)」を導入しています。

  • 特徴: 1,000km単位で事前にRUCライセンスを購入・申告する方式。車種によって細かく税額が分かれています。
  • 教訓: ガソリン税の代替としてではなく、ガソリン税を払わない車両への公平な負担という形で限定的に導入することで、国民の理解を得て段階的な導入に成功しています。

​4.2. アメリカ・オレゴン州:「OReGO」と選択制の実験

​アメリカのオレゴン州では、走行距離課税システム「OReGO」を試験的に導入しています。

  • 特徴: 1マイル(約1.6km)あたり1.9セントを課金し、支払ったガソリン税額と相殺する選択制・自主参加型の仕組みです。GPS情報提供の有無を選択でき、プライバシーにも配慮しています。
  • 教訓: 既存の税金との二重取りを避け(相殺方式)、プライバシー保護をオプションで担保することで、抵抗感を和らげる工夫をしています。しかし、本格的な全州・全車両への義務化には至っていません。

​4.3. ドイツ・フランス:大型トラックへの限定導入

​欧州では、ドイツやフランスが大型トラックを対象に、走行距離や重量に応じた課金制度を導入・検討しています。

  • 教訓: 物流コストへの影響が甚大であることから、フランスでは導入が廃案となった事例もあり、商用車への課税は経済全体への影響を考慮した慎重な設計が必要であることを示しています。

​5. まとめと今後の展望:走行距離税は実現するのか?

​5.1. 導入可能性の評価

​ガソリン暫定税率の廃止は、自動車税制のあり方を根本から見直す「トリガー」になります。

評価軸結論理由
政治・財源片山さつき大臣の発言で導入の可能性は現時点ではほぼ0暫定税率廃止の代替え財源が走行機距離勢ではまったく意味がない。
社会・公平性地方と都市の格差解消が鍵。地方在住者、物流業界の反発を抑えるための制度設計(軽減措置)が必須。
技術・制度技術的課題は克服可能だが、国民のプライバシー懸念払拭が最難関。車載

結論として、走行距離税の導入は単なる「可能性」ではなく、自動車税制の持続可能性を保つための「必然」の方向性にあると言えます。しかし現状ではガソリンの暫定税がなくなりましたが代わりに走行税ができましたでは全く減税の意味がありません。

​5.2. 私たちが今、備えるべきこと

高市政権になり「暫定税率の廃止」があっさりと決まりました。そしておそらく石破政権であれば導入されたであろう走行距離税も否定されました。これは非常に大きなことです。

ただ依然として道路などにかかるインフラ整備の費用は必要となります。その為、何らかの形で電気自動車にも増税は必然になってくると思いますが、こういった自動車税制の大きな変革期は、私たちドライバー一人ひとりの移動に対する意識を変え、持続可能な社会への貢献を問い直す機会でもあります。今後の国会での議論、そして税制調査会の動向に引き続き注目していきましょう。

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